網羅系はどれを選ぶか — 白・黄・青・赤チャートとFocus Goldの違い
数学の参考書選びで最初に迷うのが「網羅系をどれにするか」です。青チャート・Focus Gold・黄チャート……名前は知っていても、何がどう違うのかは意外と説明されません。この記事では、収録データの難易度・問題数・想定学習時間をもとに、5冊の違いと選び分けを整理します。
網羅系とは、何をするための本か
網羅系参考書は、入試で問われる解法のパターンを、分野ごとに漏れなく並べた本です。教科書が「定義と定理の説明」を担うのに対して、網羅系は「その定理を使う典型問題を、ひと通り経験させる」役割を持ちます。
数学の入試問題は、まったく新しい発想を要求するものばかりではありません。多くは、既知の解法を組み合わせて解けます。だから「知っている解法の総量」がそのまま得点力になる段階が存在し、そこを効率よく通過するための道具が網羅系です。
逆に言えば、網羅系はそれ単体で入試を突破する本ではありません。解法の在庫を作る本であって、初見の問題に対してどの在庫を引き出すかを訓練するのは、そのあとの演習書の役割です。網羅系を終えたら次に進む、という前提で選んでください。
辞書としても使う
網羅系は「読む本」ではなく「引く本」でもあります。1周終えたあとも、演習中に分からない分野が出てきたら該当する例題に戻る、という使い方が想定されています。手放さずに手元に置いておく前提の本です。
5冊を数字で比べる
チャート式は色でレベルが分かれています。やさしい順に白・黄・青・赤。Focus Gold は啓林館の網羅系で、青チャートと並んで進学校で採用されることが多い一冊です。まず数字で並べます。
| 参考書 | 難易度 | 到達目安 | 問題数 | 想定時間 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|---|
| 白チャート | 3 / 10 | 35〜55 | 総問題 約1000/巻 | 各巻60〜80h | 教科書内容に不安があり基礎から網羅したい人 |
| 黄チャート | 5 / 10 | 45〜62 | 総問題 約1100/巻 | 各巻70〜90h | 日大〜MARCH・地方国公立で王道の網羅をしたい人 |
| 青チャート | 6 / 10 | 50〜67 | 総問題 約1100/巻 | 各巻90〜110h | 難関大まで見据えて盤石な網羅をしたい人 |
| 赤チャート | 7 / 10 | 58〜72 | 例題+演習 約1200/巻 | 各巻100〜120h | 数学が得意で最難関を狙う網羅派 |
| Focus Gold | 6 / 10 | 50〜70 | 総問題 1000超/巻 | 各巻100〜120h | 高1・高2から難関大を見据えて腰を据えたい人 |
この表から読み取れることは 3 つあります。
- 難易度の差は連続している。 白から赤まで一気に飛ぶのではなく、白 → 黄 → 青 → 赤と段階的に上がります。到達目安の偏差値帯も重なりながらずれていきます。
- 問題数はほとんど変わらない。 どれも 1 巻あたり 1000 問前後です。「上位の色ほど問題が多い」わけではありません。変わるのは 1 問あたりの重さです。
- 想定学習時間は上位ほど伸びる。 白と青では 1 巻あたりの想定時間が 1.5 倍近く違います。問題数が同じでも、1 問を消化するのにかかる時間が違うということです。
ここが選択のポイントです。網羅系の負担は「冊数」ではなく「1 問あたりの時間 × 問題数」で決まります。難しい網羅系を選ぶということは、同じ問題数に対してより多くの時間を払う契約を結ぶことを意味します。
青チャートとFocus Goldはどちらを選ぶか
最も多い質問がこれです。難易度も到達目安もほぼ同じ 2 冊で、どちらを選んでも到達点は変わりません。違いは中身の作りにあります。
青チャート
数研出版の定番で、採用している高校が多いのが最大の実務的メリットです。学校で配られているなら、それを使うのが最も合理的です。使い方の情報も豊富で、進度の指示を学校から受けられることもあります。一方で解説は簡潔で、講義系の参考書に比べると読者が補って読む前提の書き方です。
Focus Gold
例題の冒頭に「Focus」として考え方の指針が置かれ、段階を追って構成されている点が特徴です。マスター編からチャレンジ編まで進めると、網羅系 1 冊で入試応用レベルまで届く設計になっています。そのぶん厚く、高 3 から始めるには重いという評価もあります。
判断は次のようになります。
- 学校でどちらかが配られている → 配られたほうを使う。網羅系を 2 冊買う意味はありません。
- 高 1・高 2 から腰を据えて取り組める → Focus Gold。時間をかけてチャレンジ編まで進める余裕があるなら、演習書への接続が 1 段階省けます。
- 高 3 から始める・自分で選ぶ → 青チャート。情報が多く、例題だけに絞る運用がしやすい構成です。
白・黄・赤はどんなときに選ぶか
白チャート — 教科書に不安があるとき
白チャートは、チャート式の中で最もやさしい網羅書です。教科書の内容そのものに不安がある段階から使えます。共通テストと中堅私大までを射程に置いた本なので、難関大の二次試験を目指すなら、これを終えたあとにもう一段上の演習が必要になります。
「基礎からやり直したいが、講義系の本を読むほど時間がない」という場合に、白チャートを網羅系兼参考書として使う運用は成立します。
黄チャート — 受験生のボリューム層
黄チャートは、青チャートより取り組みやすく、共通テストから中堅国公私大までを標準的にカバーします。青チャートを開いてみて「例題の時点で手が出ない」と感じるなら、黄に落とすのは妥当な判断です。
網羅系は完走できなければ意味がない本です。1 段やさしい本を最後まで終えるほうが、上位の本を半分で放り出すより確実に力になります。
赤チャート — 数学が得意で最難関を狙うとき
赤チャートはチャート式の最上位です。新課程版では講義色が強まり、読み物としての質も上がっています。ただし基礎が固まっていない状態で入ると消化不良になります。多くの受験生にとってはオーバーワークで、青チャート+演習書のほうが効率的です。
網羅系を使わないという選択肢
高 3 の春以降から数学を立て直す場合、網羅系は時間的に成立しないことがあります。1 巻あたり 70〜110 時間、それが 3 巻分となると、他科目に割ける時間が残りません。
その場合の現実的な代替が基礎問題精講です。
問題数が 3 分の 1 以下、想定時間も半分程度です。網羅性ではチャートに劣りますが、入試頻出パターンに絞ってあるため、限られた時間で全範囲を 1 周する目的には合っています。
注意点として、基礎問題精講から上位の標準問題精講への難易度差は大きめです。あいだに演習を挟むか、志望校のレベルによっては別系統の演習書に移る判断が必要になります。
不安で選ばない
「網羅系をやらないと不安」という理由だけで、残り時間に合わない本を選ぶのは危険です。網羅系は途中でやめると、やった範囲の解法在庫しか残りません。全範囲を薄く 1 周したほうが、模試での取りこぼしは減ります。
選んだあと — 例題だけでいいのか
網羅系には例題・練習・演習問題など複数の層があります。全部やると想定時間を大きく超えるため、どこまでやるかを最初に決めておく必要があります。
- まず例題だけを 1 周する。 全分野の解法在庫を作ることを優先します。ここで完璧を目指さず、解答を見て理解できれば次へ進みます。
- 2 周目で、1 周目に解けなかった例題だけを回す。 印をつけておくと効率が上がります。
- 練習・演習問題は、志望校のレベルに応じて取捨する。 難関大志望で時間があるなら取り組み、時間がなければ演習書に移ります。
「例題だけで足りるか」は志望校によります。共通テスト中心なら例題の完成度を上げるだけで十分に届きます。難関大の二次試験なら、網羅系のあとに演習書を 1 冊以上挟むのが前提です。どちらにせよ、網羅系の中で完結させようとしないほうが早いということです。