理科はどの科目を選ぶか — 物理・化学・生物の作りの違い
選び方 の記事
理科の科目選択は、受験勉強の中で最も取り返しがつきにくい判断の 1 つです。英語や数学は途中で方針を変えても積み上げが残りますが、理科を途中で変えると、それまでの時間の多くが消えます。しかも判断を迫られるのは、まだ各科目の中身をよく知らない高 1 の段階です。この記事では、3 科目の作りの違いを、参考書のデータからできるだけ客観的に整理します。
まず確認すること — 選べない場合がある
好みの前に、制約から確認してください。志望する大学・学部によっては、受験できる理科の科目が指定されています。工学系で物理が必須になっている大学、医療系で特定の科目を求める大学があります。
この確認を後回しにすると、選択そのものが無効になります。必ず募集要項で、志望校と併願候補の指定を確かめてください。第一志望だけでなく、併願校で使えるかまで見る必要があります。
志望校から探すの大学別ページでは、その大学の科目ごとの出題傾向を確認できます。ただし受験できる科目の指定そのものは、必ず大学が公表する最新の募集要項で確認してください。入試制度は年度で変わります。
理科基礎と専門科目
理科基礎(物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎)と専門科目は別の科目です。文系で共通テストに理科基礎を使う場合と、理系で専門科目を使う場合では、必要な学習量が大きく違います。この記事は主に理系の専門科目の選択を扱っています。
3科目の作りの違い
制約がなく選べる場合、判断材料になるのは科目の作りの違いです。それぞれの「基礎を固める 1 冊」を並べると、性格の差が見えます。
| 参考書 | 難易度 | 到達目安 | 問題数 | 想定時間 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|---|
| 物理のエッセンス 力学・波動 | 4 / 10 | 45〜60 | 例題+問題 約200題 | 30〜40h | 教科書を終えて入試物理を始める受験生 |
| 化学 基礎問題精講 | 5 / 10 | 50〜62 | 必修問題+演習問題 約200題 | 40〜60h | 独学で入試基礎を固めたい受験生 |
| 生物 基礎問題精講 | 5 / 10 | 48〜65 | 必修問題 約100題+演習 | 40〜60h | 入試の典型問題を一通り身につけたい理系生 |
数字の背景にある構造の違いを説明します。
物理 — 覚えることは少なく、使い方が難しい
物理は、覚える法則の数が理科の中で最も少ない科目です。その代わり、少ない法則を状況に応じて組み合わせることが求められます。だから、理解が追いつくまでは点が動かず、理解した後で一気に上がるという伸び方をします。
この性質は、得点の上限が高く、下限が低いことを意味します。完成すれば安定して高得点を取れますが、途中で止まると壊滅的な点になります。
化学 — 3分野が別の科目のように分かれている
化学は、理論・無機・有機という 3 つの分野で必要な力が違います。理論は計算、無機は整理された暗記、有機は構造決定というパズルです。分野ごとに得意不得意が出るぶん、どこかで必ず稼げるという安定性があります。
多くの理系受験生が化学を選ぶのは、この安定性と、受験できる大学の幅の広さが理由です。詳しくは化学の参考書の選び方に書きました。
生物 — 覚える量は多く、上限は抑えられがち
生物は、覚える量が 3 科目で最も多くなります。一方で、初期の点は取りやすい科目です。用語を覚えた段階で共通テストの一定水準までは届きます。
ただし上位帯では、初見の実験を読む考察問題が中心になり、ここで差がつきます。また、計算問題の比重が小さいぶん、満点近くを狙いにくいという指摘もあります。生物の対策は生物の参考書の選び方にまとめました。
判断の順番
実務的には、次の順で決めるのが安全です。
- 1. 志望校・併願校の指定を確認する。 選べないなら、そこで決まります。
- 2. 学校で開講されているかを確認する。 独学は可能ですが、授業と実験がある科目のほうが負担は小さくなります。特に地学は開講していない高校が多く、教材も限られます。
- 3. 数学の得意不得意で判断する。 物理は数学の道具立てをそのまま使います。数学で式変形が苦にならないなら物理は相性がよく、数学で手が止まるタイプなら生物のほうが安定します。
- 4. 残り時間で判断する。 高 3 から本格的に始める場合、伸びが遅れて出る物理は不利になりがちです。逆に高 1・高 2 から積める人には、上限の高い物理が有利に働きます。
「暗記が得意だから生物」という決め方は、精度が低い判断です。生物の上位帯は暗記ではなく考察で決まるからです。同様に「計算が得意だから物理」も雑で、物理で問われるのは計算力よりも状況を式に翻訳する力です。
地学という選択肢
地学は、選べる場合には有力な選択肢です。共通テストのみで理科を使う場合、地学基礎は学習量が小さく、短期で仕上げやすい科目とされています。
地学基礎を語り口調で一周する入門講義書。全15講と確認問題で構成する。同じ入門帯の安藤雅彦 地学基礎 講義の実況中継より図と板書風のまとめが多…
共通テスト向けに講義と演習を一体にした一冊。各テーマの末尾に共テ形式の確認問題が付き、別冊のまとめで直前の総復習ができる。同帯の地学基礎の点数…
共通テストで問われる知識を過去問の分析にもとづいて整理した講義書。各節末に過去問ベースの確認問題が付く。きめる!共通テスト地学基礎より情報量が…
ただし、専門科目としての地学には制約があります。受験できる大学が限られ、参考書と問題集の選択肢も他科目に比べて少ないという現実的な問題です。収録している冊数を見ても、他の 3 科目とは差があります。
文系が共通テストで理科基礎を使う場合や、理系でも地学が指定されている場合を除けば、専門科目としての地学は慎重に判断してください。
途中で変えられるか
結論から言うと、変えられる期限は思っているより早いです。理科は範囲が広く、一から積み直すのに相応の時間がかかります。
判断の目安はこうです。
- 高2の途中まで — 変更は現実的です。基礎的な範囲しか進んでいないので、失う時間は限定的です。
- 高3の春 — 変更するなら最後の機会です。他科目の仕上げと並行して一から積むことになるので、覚悟が要ります。
- 高3の夏以降 — 原則として変えるべきではありません。いま選んでいる科目の完成度を上げるほうが、確実に点になります。
「今の科目が苦手だから変える」は、多くの場合うまくいきません。苦手の原因が科目との相性ではなく、学習の進め方や着手の遅さにあることが多いためです。変更を考える前に、その科目のルートのどこで止まっているかを確認してください。


